「マンションで大きな災害にあったら、避難所に行くべき?それとも自宅にとどまるべき?」
住民の方からよく受ける質問ですが、現役管理員としての答えははっきりしています。
建物の安全が確認できるなら、可能な限り「在宅避難」。これがマンション防災の基本です。
ただし「必ず在宅避難すべき」という意味ではありません。状況によっては、迷わず「立ち退き避難」を選ぶべきケースもあります。
この記事では、その分かれ目をひと目で確認できる「判断基準表」と、なぜマンションでは在宅避難が基本なのかを解説します。
【この記事でわかること】
- 在宅避難と立ち退き避難の判断基準(現役管理員オリジナル比較表)
- マンションで在宅避難が基本とされる理由
- エレベーター停止・排水管破損など“マンション特有のリスク”
- 現役管理員が見てきたマンション防災の現実
- 今日からできる備蓄と設備チェック
【結論】りす丸式 在宅避難と立ち退き避難の判断基準表
在宅避難の判断基準は「不便かどうか」ではなく「安全かどうか」です。
10年の管理員経験をもとに、判断の分岐点を8つの項目で整理しました。
りす丸オリジナルの比較表がこちらです。
| 判断項目 | 在宅避難を選ぶ目安 | 立ち退き避難を検討すべき状態 |
|---|---|---|
| 建物の構造 | 耐震基準を満たしており、大きな損傷がない | 傾き・倒壊の恐れ、構造部に重大な被害 |
| 室内の安全 | 家具転倒防止がされ、居住空間を確保できる | 家具転倒・ガラス破損で生活が困難 |
| 火災の有無 | 周囲で火災が発生していない | 建物内外で火災が発生・延焼の危険 |
| ライフライン | 停止しても備蓄で一定期間対応可能 | 水・電気・ガスすべて停止し長期化 |
| トイレ事情 | 携帯トイレ等で対応可能 | 排水破損・使用不可で衛生維持が困難 |
| 周辺環境 | 建物周辺が安全に保たれている | 崖崩れ・浸水・液状化の危険 |
| 行政からの指示 | 避難指示・命令が出ていない | 避難指示・避難命令が発令されている |
| 自身・家族の状況 | 体調が安定し自力生活が可能 | 高齢者・要配慮者で在宅が困難 |
ひとつでも右の列(立ち退き避難)に当てはまる項目があれば、在宅避難にこだわる必要はありません。
特に、行政から避難指示・避難命令が出ている場合は、この表に関係なく、迷わず立ち退き避難を選んでください。
マンション防災の鍵「在宅避難」とは?
在宅避難とは、地震などの災害が起きたときに、今いる場所に火災や爆発、建物の倒壊等の危険がなく、自宅で身の安全が確保され、引き続き住める場合に、自宅で避難生活を送ることです。
(引用:目黒区ホームページ|在宅避難とその備え)
東京都目黒区のホームページから在宅避難に関する基本的な考え方を引用しました。
(引用:目黒区ホームページ|在宅避難とその備え)
つまり、安全が確保できるのであれば、自宅をそのまま家族の避難所として活用するという考え方です。耐震性能にすぐれ、地上より高い位置に住居があるマンションでは安全性が確保されているという前提で、東京都をはじめ多くの自治体がマンション住民に対して「在宅避難」を推奨しています。
なぜマンションでは在宅避難が基本なのか—3つの理由

現役管理員の視点で言えば、マンション住民は災害時に「在宅避難を選択するしかない」という、マンションならではの事情もあるのです。理由は大きく3つあります。
理由1:エレベーターが止まり、垂直移動が難しくなる
マンションのエレベーターは地震発生時には自動的に停止する機能が建築基準法によって義務付けられています。
第百二十九条の十 エレベーターには、制動装置を設けなければならない。
二.地震その他の衝撃により生じた国土交通大臣が定める加速度を検知し、自動的に、かごを昇降路の出入口の戸の位置に停止させ、かつ、当該かごの出入口の戸及び昇降路の出入口の戸を開き、又はかご内の人がこれらの戸を開くことができることとする装置
(引用:e-Gov 法令検索|建築基準法施行令)
軽微な地震で停止した場合には自動的に運転再開されますが、大型の地震(震度4以上)の場合には技術者による安全点検が完了しなければ運転は再開できません。
さらに、停電になってしまうと復旧するまでは動きません。
\マンションの避難ルートは2方向が基本、避難経路の確認方法をまとめました/
理由2:避難所は「避難者が多すぎて入れない」という現実
避難所に移動しようと思っても、「避難者が多くて避難所に入れない」といった状況も考えられます。
たとえば東京都世田谷区を例にとると、世田谷区民は約95万人に対して避難所開設数は96か所となっています。(参考:世田谷区HP)
1ヵ所に千人収容可能としても96,000人、全区民の1割程度しか収容できないのが現実です。
理由3:マンションの災害備蓄品が活用できる
最近の防災意識の高まりから、独自の災害備蓄を行っているマンション管理組合も増えてきました。
たとえば、高層マンションが数多く建設されている東京都江東区では「江東区マンション等の建設に関する条例施行規則」によって、一定規模以上のマンションでは災害用格納庫(防災倉庫)の設置が義務付けられています。
りす丸防災倉庫の在庫管理は管理員の重要な仕事の一つです
それでも在宅避難は、まだ十分に浸透していない
マンションでの在宅避難は、推奨するパンフレットや冊子などが配布されて、ホームページなどでも推奨されています。
しかし、実際の現場では住民にも管理組合にも、「まだまだ十分に浸透していないな」と日々の管理業務のなかで実感しています。
現役管理員として実感している「マンション防災の現実」


りす丸が勤務しているマンションにも「防災倉庫」が設置されています。
しかし、「この防災倉庫のことを住民はしっているのかな?」と疑問に思うこともしばしば。
理事会で災害に対する対応として設置はしましたが、住民への周知や告知なども積極的におこなってはいないのが現実。
倉庫内の備蓄品の管理は管理員にまかせっぱなしのような状況です。
りす丸が経験した苦い経験、「防災倉庫」の棚卸
りす丸は現在のマンションに2年前に着任しましたが、その時に真っ先に手を付けたのが「防災倉庫」の棚卸です。
その実態は、多くの備蓄食料や衛生用品などが使用期限切れとなっていました。
理事会に状況を報告して必要な備蓄品の買い替えを提案しましたが、その時は管理会社が「管理がなっていない」とお叱りをうけてしまいました。
実際には防災倉庫の管理は住民の皆様のためにあるものなのですが…。



管理会社からは「余計なことをしないでほしい」と怒られて、がっかりしたのを今でも覚えています。
現場で感じる、マンション防災の課題


りす丸が現役管理員として「防災」にこだわる理由、それは、数十年前の経験にあります。
若い頃りす丸は大手食品スーパーの本社勤務をしていました。その時に「阪神淡路大震災」が発生しました。
りす丸は東京勤務でしたが現地応援として神戸に派遣され、その時の惨状がいまでも目に焼き付いて離れません。
その後も大きな災害が続き、そのたびに防災に関する取り組みは強化されているのは間違いありません。
しかし本音を言えば管理組合での防災に関する話し合いも「本気度が足りない!」と、どうしても感じてしまいます。
「災害は本当に起きるんです!」と理事会の席上で、つい言いたくなってしまいます。
しかし、ここは冷静に、まずは防災に関する知識を皆様に知っていただくことを第一歩として現役管理員なりに取り組んでいます。
りす丸のマンションで実際に決めたこと—震度5以上は「全館放送」


そんな課題を感じるなかで、りす丸のマンションでは最近、一歩前進がありました。
理事会で「震度5以上の地震が発生した際には、管理員が『急いで避難せず、まずは自宅にとどまってください』と全館放送することに決めました。
※りす丸のマンションでの運用例です。放送設備の有無や管理員の勤務形態はマンションごとに異なります。「わがマンションならどうするか」を、ぜひ理事会で話し合ってみてください。なお、行政から避難指示が出た場合は、そちらが優先です。
それでも残る壁—「誰がやるの?」問題
一般的な防災マニュアルには「防災本部を立ち上げる」、「防災委員会が主導する」と書かれています。しかし、その理事もまた居住者、つまり被災者です。発災直後は、ご自宅とご家族が最優先になるのは当然のこと。
「本部を立ち上げる人」が構造的に不在になる瞬間が、現実には必ずあります。
だからこそ、全館放送ルールのような「人の参集や判断に依存しない仕組み」と、住民一人ひとりの在宅避難の備えが重要になるのです。



「誰がやるの?」問題は、現役管理員として伝えたいことが多いテーマなので、別の記事で詳しく掘り下げる予定です。
在宅避難を考えるヒント「東京都防災ホームページ」
りす丸が勤務しているマンションでは災害に関する情報源として「東京都防災ホームページ」を活用しています。
東京都防災ホームページとは
東京都が運営する、災害から命を守り、その後の生活を維持するための公式ポータルサイトです。
東京都防災HPの内容を要約すると、在宅避難の基本は以下の通りです。
- 建物の安全を確認する
- 水・食料・トイレなどの生活インフラを自宅で確保する
- 情報収集手段を複数持つ
- 3日〜1週間の生活を自力で維持する
これらを満たせば、避難所へ行かずに自宅で安全に過ごせます。
在宅避難の準備—東京都防災ホームページに学ぶ
りす丸が勤務しているマンションでは、災害に関する情報源として「東京都防災ホームページ」(LINK)を参考に防災マニュアルを作成しました。
マンション防災に特化した具体的な指針があり、「マンションは在宅避難が基本」と明確に打ち出しているのが特徴です。
要約すると、在宅避難の基本は次の3点です。
最重要は「トイレ対策」


マンションで災害にあった際、「トイレ」の使用は要注意です。一見してトイレが壊れていないように見えても、水道が使えなければ洗浄できません。
さらに、たとえ水道が使えたとしても、排水管に亀裂が発生していると、流した水が下の階の住戸に漏水してしまう恐れがあります。もし漏水してしまうと、下階の住民との感情的なもめ事に発展する最悪のケースも考えられます。
災害後のトイレ使用は、管理組合の点検が終了するまで控えるのが原則。簡易トイレの準備は、在宅避難の最重要対策です。
\簡易トイレは必ず凝固剤とセットになっているものを選ぶ。可燃ゴミとして処分できます。/
意外と時間がかかる「マンションの停電復旧」


災害発生時、電力会社は断線した電線の復旧などを素早く実施します。しかし、地域の停電復旧とマンションの停電復旧は同時ではありません。
中規模以上のマンションでは「電力室」と呼ばれる場所で一括して電力の供給を受け、そこから独自の配線で各住戸に電力を供給しています。この電気設備は電力会社ではなく、マンション側で復旧工事を手配しなければなりません。マンション内の設備が壊れたことが原因の停電は、復旧まで時間がかかる場合があるのです。
ソーラー発電機やポータブル電源などの準備も、在宅避難の重要なポイントです。
停電はエレベーター・給水ポンプ・トイレ・冷蔵庫と、マンションの生活機能を連鎖的に止めてしまう、在宅避難の最大の急所です。
だからこそマンションの在宅避難の準備品は「停電」を前提にして重要度順に選ぶのがポイントです。
\ソーラー発電機は必須。在宅避難ではスマホやラジオからの情報収集が欠かせません。/
備蓄はまず「3日分」、できれば「1週間分」


東京都防災ホームページでは、最低でも3日分(72時間)の備蓄を推奨しています。発災直後の72時間は人命救助が最優先されるため、支援がすぐに届かないことも想定しておく必要があります。
余裕があれば、1週間分を目標に少しずつ備えていきましょう。
どれぐらい備蓄すべきか迷う方は、東京都の「東京備蓄ナビ」がおすすめです。家族構成を入力すると、必要な備蓄量をアドバイスしてもらえます。
\保存食セットは梱包がコンパクト。マンション内でも保管スペースを取りません/
まとめ:マンション全体で「在宅避難」を話し合いましょう


災害時にマンションでは「とりあえず避難所へ行く」よりも、自宅にとどまる「在宅避難」が現実的な選択になるケースが多いことを、日々の管理業務の中で実感しています。
とはいえ、在宅避難は「何もしなくても成り立つ」ものではありません。
- 居住者が在宅避難を知らない
- マンションとしての備えが追いついていない
- いざという時、誰に何を聞けばいいのかわからない
こうした状態のままでは、在宅避難は絵に描いた餅になってしまいます。
まずは「マンションは在宅避難が基本」という共通認識を持ち、
- 自分の住戸で3日間しのげる最低限の備えを考える
- 管理組合として何が足りていないかを把握する
この2点からスタートすることを提案します。
この記事を読んだ今日、まずは
- 自宅の備蓄をチェックする
- マンションの防災倉庫の場所を確認する
この2つだけでもやってみてください。
りす丸も引き続きこのサイトで、実際に体験した「マンション防災の課題」や、「
管理組合としてそなえるべき準備」などについて発信していきます。
※東京都以外の自治体でも「在宅避難」を基本とする考え方は共通しています。詳細はお住まいの自治体HPをご確認ください。
在宅避難に関するよくある質問(FAQ)
- マンションでは本当に避難所に行かなくていいのですか?
-
建物の安全が確保できている場合は、在宅避難が基本です。
東京都をはじめ多くの自治体では、耐震性が確保され、火災や倒壊の危険がないマンションについては「在宅避難」を推奨しています。
ただし、行政から避難指示・避難命令が出ている場合は必ず従ってください。 - 高層階に住んでいますが、在宅避難は可能ですか?
-
可能ですが、エレベーター停止を前提にした備えが必要です。
地震後は点検が完了するまでエレベーターが使えないことが多く、高層階では移動が大きな負担になります。
水・食料・簡易トイレなどを各住戸で備蓄しておくことが、在宅避難の前提条件です。 - 水道が出ていれば、トイレは使っても問題ありませんか?
-
原則として、管理組合や専門業者の安全確認が終わるまで使用は控えるべきです。
排水管に目に見えない損傷があると、下階への漏水事故につながる可能性があります。
災害時は簡易トイレを使用することが、マンションでは最も安全な選択です。 - 停電はどれくらいで復旧しますか?
-
地域の停電が復旧しても、マンション内はすぐに復旧しないことがあります。
中規模以上のマンションでは、電気設備の点検や復旧作業を管理組合側で手配する必要があります。
そのため、照明・情報収集・スマートフォン充電の備えは必須です。 - 賃貸マンションでも在宅避難は考えるべきですか?
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はい、分譲・賃貸に関係なく在宅避難の考え方は共通です。
エレベーター停止やライフライン断絶などのリスクは同じです。
賃貸住宅でも、自分の住戸で数日生活できる備えをしておくことが大切です。 - 在宅避難と立ち退き避難の判断は誰がするのですか?
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最終的な判断材料は「行政の指示」と「建物の安全状況」です。管理組合や管理会社は建物の状況確認を行いますが、避難指示・避難命令が出ている場合は、個人判断せず立ち退き避難を選んでください。
- 管理組合として、まず何から始めればいいですか?
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防災倉庫の中身確認と、住民への周知から始めるのがおすすめです。備蓄品の期限切れや不足は意外と多く、住民が存在を知らないケースもあります。まずは現状を把握し、在宅避難を前提とした防災意識の共有を行いましょう。













