「上の階で毎晩、夜中に洗濯をしているみたいで、洗濯機の音が響いてくるの。どんな方が住んでいるのか教えてほしい」
なるほど、毎晩騒音で起こされるのは確かに大変ですね。
それでも、上の階にどんな方が住んでいるかをお教えするわけにはいきません。私はこうお答えしました。
「深夜の騒音は気になりますね。私のほうから、一度ご事情を伺ってみます。」
マンションの管理室には、思っている以上に個人情報があふれています。
管理員は、その多くに日々触れながら働いています。だからこそ、こうした場面で「言わない」だけでなく、「代わりにどう動くか」を決めておく必要があります。
今回の記事では、マンションのどこに個人情報の漏えいリスクがあるのか、現役管理員の私が絶対にやらないこと、そして居住者の方からよく受ける相談に実際にどう答えているかを、現場の実例でご紹介します。
【この記事でわかること】
- マンション管理員が日常業務で取り扱う個人情報の種類
- 管理員が避けるべき3つのNG行動と注意点
- 騒音苦情・名簿の閲覧・漏水対応・防犯カメラ映像の取り扱い方
- 個人情報の保護における管理会社・管理組合・管理員それぞれの役割
- 個人情報保護の知識が、居住者だけでなく管理員自身を守ることにつながる理由
管理員は毎日個人情報に囲まれている

管理室には、居住者名簿や緊急連絡先など、慎重に取り扱うべき個人情報が保管されています。そのため、書類を適切に保管するとともに、管理室への立入りを管理することも重要です。
- 【マンション管理室に保管されている主な個人情報】
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- 居住者名簿や入居時の届出書類
- 居住者の緊急連絡先
- 駐車場・駐輪場などの契約書類
- 防犯カメラの映像
- その他、管理業務で取り扱う居住者に関する情報
これらの情報が不適切に取り扱われると、居住者のプライバシーを侵害するだけでなく、暮らしの安全に影響するおそれもあります。
\個人情報保護に関しては管理業務主任者試験挑戦記でもしっかりと勉強しています/
管理員が絶対にやってはいけない3つのNG行動
りす丸も「個人情報」に関しては、とても慎重な取り扱いを常に心がけています。
管理員として、やってはいけないNG行動を3つ、実体験をもとにご紹介します。
NG① 他の住戸の話を、会話の中でしてしまう

なぜダメか
世間話のつもりでも、「〇〇号室の方は夜勤らしい」「最近お子さんが生まれたみたい」といった一言は、その方の生活が分かってしまう情報です。聞いた方に悪気がなくても、話は広がっていきます。
防ぎ方
冒頭の洗濯機の件のように、「どんな方か」を聞かれても答えず、「私のほうから伺ってみます」と、管理員が間に入る形に切り替えます。
結局のところ、会話での「うっかり」を防ぐのは、管理員一人ひとりの意識しかありません。
りす丸は個人情報保護のために3つの注意ポイントを守って仕事をしています。
- 名簿や緊急連絡先を机の上に出したまま離席しない。
- 個人情報が記載された書類を、一般ごみとしてそのまま廃棄しない。
- 業務上必要のない情報を、興味本位で閲覧しない。
りす丸ついうっかり話してしまったことが、「管理員さんに聞いたんだけど・・・」で広がってしまう。これだけは避けなければなりません。
NG② 書類を誤投函してしまう


なぜダメか
管理組合からの通知や個別のお知らせが別の住戸に入ってしまうと、それだけで名前や内容が他人の目に触れます。
防ぎ方
りす丸は投函確認表を作って、チェックしながら投函しています。
使い終わった確認表はファイリングして保管しておきます。後日「届いていない」「違うものが入っていた」という問い合わせがあっても、すぐに確かめられます。



確認表があれば、投函忘れも防げるのです。
NG③ 来訪者や業者に、部屋番号や在宅状況を教えてしまう


なぜダメか
「〇〇さんのお宅は何号室ですか」「今日はご在宅ですか」と聞かれて答えてしまうと、相手が誰であっても、その住戸の情報を渡したことになります。
防ぎ方
りす丸は管理規約や細則で決まっていることを落ち着いてご説明し、ご理解をいただいています。そのうえで、管理員としてできることをご提案するようにしています。



冷静にご説明するのがポイント。個人情報の保護はルール通りが大原則です。
居住者によく聞かれることと、管理員の対応方法
ここからが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
現場で個人情報を守るといっても、「お答えできません」で終わってしまっては、相談した方の困りごとは解決しません。
りす丸が実際にどう対応しているかをご紹介します。
「上の階の騒音に困っている」


お子さんが走るバタバタという音がうるさい、というご相談がありました。
「注意をしたいので、どういう方なのか教えて欲しい」との要望です。しかし、そのままお伝えするわけにはいきません。
そこで、該当するエレベーター内に「お子様の騒音にご注意ください」という告知を掲示しました。
それでもおさまらなかったので、管理員から該当住戸にご連絡しました。
そのときの言い方は、こうです。
「最近、お子様の走る音などの騒音でご相談がありました。同じような音が、お宅でも気になることはありますか?」
苦情をそのまま伝えるのではなく、騒音についてヒアリングする形でお声がけしたところ、その後おさまりました。



どなたから相談があったかは、もちろんお伝えしていません。
\現役管理員からみた困った住民を5つのタイプで紹介しています/
「隣の人の連絡先を教えて」「名簿を見せて」


この二つは、居住者の方からよくある要望です。理由はたいてい「直接苦情を言いたいから」です。
その場合は、まず状況を伺ったうえで、個人情報の保護のためにお教えできないことをご説明します。
そのうえで、苦情やご要望があれば、いったん管理組合や管理会社に相談し、必要に応じて理事会あてに書面でご提出いただくようお願いしています。
名簿の閲覧については、管理員が一律に「見せられない」と判断すればよいわけではありません。
国土交通省のマンション標準管理規約(単棟型)では、第31条の2に組合員名簿等の閲覧に関する規定があります。
同条では、組合員から相当の理由を付した書面または電磁的方法による請求があった場合、理事長が名簿等を閲覧させることとされています。
標準管理規約 第 31 条の2
理事長は、組合員名簿及び居住者名簿(以下「組合員名簿等」という。)を、書面又は電磁的記録により作成して保管し、組合員の相当の理由を付した書面又は電磁的方法による請求があったときは、これらを閲覧させなければならない。この場合において、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。
ただし、標準管理規約はあくまで規約を作成・改正する際のひな型です。実際の手続きや閲覧できる情報については、それぞれのマンションの管理規約を確認する必要があります。
管理員はその場の判断で名簿を見せるのではなく、定められた手続きに沿って対応することが大切です。



実際の扱いは、お住まいのマンションの管理規約で確認してください。
「漏水したので、相手の連絡先が知りたい」


上の階からの漏水が起きると、下の階の被害に遭った方は、たいてい怒っていらっしゃいます。そのま相手の連絡先をおしえてもトラブルをさらに複雑にしてしまう恐れがあります。
そこでりす丸は、次の手順で進めています。
- まず管理員が訪問し、被害の状況を確認する
- 「上の階の方が、お詫びと今後のご相談のために伺いたいとのことですが、お会いになりますか」と、被害に遭った方のご意思を確認する
- 初めての顔合わせは、管理員が間に入ってお引き合わせする
- 連絡先は、双方が納得したうえで交換していただく
ポイントは4つめです。連絡先を管理員が勝手に渡すのではなく、ご本人どうしが納得して交換する。これが個人情報を守ることにもなり、その後の話し合いもスムーズになります。
\初期動作・漏水の原因・保険・責任の所在などマンション漏水対応の全体像はこちら/
防犯カメラの映像は見せてもらえる?


名簿の閲覧とならんで、要望が多いのが「防犯カメラを見せて欲しい」という要望です。
しかし防犯カメラも、個人が特定できるような映像は個人情報に該当します。
「不審者に決まっている。カメラを見せろ」
ある休日の朝、ある住戸で、玄関の鍵を外からガチャガチャと回され、扉を開けられそうになるということがありました。鍵をかけていたので開けられることはありませんでしたが、怖い思いをされたそうです。
外出先から急いで戻られたご主人は、管理室に来るなり「不審者に決まっているから、防犯カメラを見せろ」とかなりの剣幕でした。個人宅の玄関前は、個人情報にあたるため防犯カメラでは映していないことをご説明すると、「それならエントランスのカメラを見せろ。不審者が映っているはずだ」と引きません。
しかし、エントランスの防犯カメラには、居住者や来訪者の姿が映っている可能性があります。個人を識別できる映像は個人情報に該当するため、管理員が独断で閲覧させることはできません。
映像の確認や提供については、管理規約や防犯カメラ運用細則など、マンションで定められた手続きに従って判断する必要があります。
そのやり取りの最中に、上の階の方から連絡が入りました。「間違えて、下の階の玄関を開けようとしてしまいました」―原因は、階を間違えた上の階の方だったのです。



居住者の方が興奮しているときこそ、管理員の冷静な対応が重要です。強く求められても、その場の判断でルールを変えてはいけません。
防犯カメラ閲覧の希望は年々増えている


防犯カメラを見たいというご要望の多くは次のような被害の確認です。
- 自転車にいたずらされた
- 不審者が玄関に来た
- 置き配の荷物がなくなった
こうした原因で要望がだんだん増えてきたため、りす丸が勤務するマンションでは「防犯カメラ運用細則」を定めました。
閲覧できるのは区分所有者のみで、理事会の承認を得ることが前提です。
- 映像を見られるかどうか、その運用方法はマンションごとの規約や細則で決まります。「必ず見せてもらえる」「絶対に見られない」とは言い切れません。
- 警察から映像の照会を受けた場合も、照会の内容や法的根拠、マンションの運用ルールなどを確認し、定められた手続きに沿って対応します。
そしてもう一つ、管理員として決めていることがあります。
「私が確認しておきます」は絶対にNGです。管理員が独断で映像を確認することはしません。
善意のつもりでも、定められた手続きから外れて映像を確認することになりかねないからです。
りす丸が勤務するマンションでは、確認が必要な場合は運用細則で定められた手続きに従います。
自宅の玄関を自分で守りたい方へ
共用部の防犯カメラは、希望すればすぐに映像を確認できるとは限りません。
ご自宅の玄関前が心配な方は、ご自身で防犯対策を検討する方法もあります。ただし、玄関前へのカメラ設置については、撮影範囲やプライバシー、マンションの管理規約などを確認することが大切です。
\防犯カメラのドアの種類別の選び方については、こちらの記事でまとめています/
まとめ|個人情報を守ることは、管理員自身を守ること
管理室には、居住者名簿や緊急連絡先、防犯カメラの映像など、慎重に扱うべき情報があります。しかし、現場では判断に迷う場面もあり、管理員一人ですべての責任を負うのは難しいと感じています。
管理会社には具体的な業務手順や相談先の提示を、管理組合や理事会には、名簿や防犯カメラ映像などの取り扱いルールの整備をお願いしたいところです。
りす丸も現役の管理員として、こうした知識の大切さを日々感じています。
管理業務主任者試験への挑戦も、資格を取得することだけが目的ではありません。マンション管理に関する法律やルールを学び、現場での判断力を高めることも、大切な目的の一つです。
学んだ知識を日々の業務に生かすことが、居住者の安心と、管理員自身を守ることにつながると考えています。



個人情報の保護は、管理員一人に任せるのではなく、管理会社・管理組合・管理員がそれぞれの役割を果たして取り組むことが重要です。
個人情報保護についてよくある質問
- マンション管理員は、居住者の個人情報をどこまで教えてよいのでしょうか?
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原則として、管理員の判断だけで第三者に個人情報を伝えることは避けましょう。 居住者の氏名や連絡先、在宅状況などを尋ねられた場合は、相手や目的を確認し、判断に迷ったときは管理会社や上司に相談することが大切です。
- 騒音の苦情があった場合、管理員から相手の居住者に直接注意してもよいですか?
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状況や管理会社の業務手順に従って対応する必要があります。 苦情を申し出た人の氏名などを安易に伝えず、事実関係を確認したうえで、管理会社に相談しながら適切な対応を進めましょう。
- 居住者から、ほかの部屋の連絡先や居住者名簿を見せてほしいと言われたら?
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その場で開示せず、管理規約や個人情報の取り扱いルールを確認しましょう。 名簿の閲覧は、申出の理由や所定の手続きなどを踏まえて判断する必要があります。管理員が独断で対応しないことが重要です。
- 防犯カメラの映像を見せてほしいと頼まれた場合は、どうすればよいですか?
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管理員の判断だけで映像を閲覧させたり、提供したりすることは避けましょう。 管理規約や防犯カメラの運用ルールを確認し、管理会社や管理組合の定める手順に従って対応します。
- 個人情報の保護は、管理員一人が責任を負うものですか?
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管理員一人に任せるのではなく、管理会社・管理組合・管理員がそれぞれの役割を果たすことが重要です。 管理会社は具体的な業務手順や相談先を示し、管理組合は必要なルールを整備します。管理員自身も基本的な知識を身につけ、判断に迷ったときは確認することが大切です。
- 管理員が個人情報保護について学ぶことには、どのような意味がありますか?
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居住者の個人情報を守るだけでなく、管理員自身をトラブルから守ることにもつながります。 管理業務主任者試験などを通じてマンション管理に関する法律やルールを学ぶことは、現場での判断力を高めるための一つの方法です。








